。礼ちゃんは僕よりも一年下の級だった。そして光子さんは僕と同じ級だった。
礼ちゃんの級では、礼ちゃんが一番評判の美人だった。学科の方でもやはり一番だった。光子さんの級では、光子さんが一番出来がよかった。しかし綺麗という点の評判では、有力な一人の競争者を持っていた。それは絹川玉子さんといった。
玉子さんは休職軍人の娘だった。まる顔の、頬の豊かな、目の小さくまるい、可愛らしい子だった。しかし僕は、そのどこかしら高慢ちきなのが、気に食わなかった。着物もいつも綺麗なのを着ていた。そして妙にそり返って、ゆったりと足を運んで歩いていた。今考えても、ちょっとこう、小さな公爵夫人というような気がする。
光子さんは衛戍病院のごく下級な薬剤師か何かの娘だった。彼女の着物はいつも垢じみていた。細面で、頬はこけていた。そして、玉子さんのように色つやのいい赤味ではなく、何だかこう下品な赤味を帯びていた。目は細く切れていた。
ある日僕は玉子さんを道に要して通せんぼをした。彼女は何にも言わずに、ただ頬を脹らして、じっと僕をにらめていた。僕はそうした彼女の態度が大嫌いだったのだ。それがもし光子さんであれば、彼
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