しないっておっしゃいね。」
千田のお母さんは僕の枕もとに来てしきりに僕を説いた。が、それが母と相談の上だと思うと、なお僕はあやまりたくなくなった。
「ざまあ見ろ。とうとうみんな帰って来たじゃないか。」
僕はひそかにそう思いながら、黙って布団を頭からかぶっていた。
「あの通り強情なんですからね……」
母はそう言いながら、また何か嚇かす方法を相談しているようだった。
「あなたもまたいい加減に馬鹿はお止しなさいよ。」
千田のお母さんは母をたしなめて、このまま黙って寝かして置くようにと勧めていた。
その間に礼ちゃんが僕のそばへやって来た。そしてそっとその手を布団の中に入れて僕の手を握った。
「ね、栄さん、わたしがあやまってあげるわね。いいでしょう、もう決してしないから勘弁して下さいってね。わたしが代りにあやまってあげるわ。ね、いいでしょう。もうあやまるわね。」
礼ちゃんは布団をまくって、じっと僕の顔を見ながら、「ね、ね」と幾度も繰返して言った。僕の堅くなっていた胸が、それでだんだん和らいで行った。そしてとうとう僕は黙ってうなずいてしまった。
お花さんは町の方の小学校に通っていた
前へ
次へ
全234ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング