ら。」
 彼はそう言って、出はいり口のドアをいったん開けて見てまた閉めて、それにピチンと鍵をおろした。
「ははあ、何か間違いでもあった時に、僕が逃げられない用心をしているんだな。」
 僕は笑いたいのをこらえて、黙って彼の処作を見ていた。彼はさっき給仕が閉めた窓のところへ行って、一々それに窓掛けをおろして、そして丁寧にお辞儀をしてまた隣りの室との間のドアの向うに消えた。
「すると、後藤はあのドアからはいって来るんだな。」
 僕はそう思って、そのドアの方に向って、煙草をくゆらして待っていた。
 が、待っているというほどもなく、すぐ後藤がはいって来た。新聞の写真でよく見ていた、鼻眼鏡とポワンテュの鬚との、まぎれもない彼だ。
「よくお出ででした。いや、お名前はよく存じています。私の方からも是非一度お目にかかりたいと思っていたのでした。きょうはこんな場合ではなはだ失礼ですが、しかし今ちょうど食事もすんで、ちょっとの間なら席をはずしてもおれます。私があなたに会って、一番さきに聞きたいと思っていたことは、どうしてあなたが今のような思想を持つようになったかです。どうです、ざっくばらんに一つ、その話をし
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