日曜で父が家にいる時には、今日こそは是非叱って下さいと迫った。
「今日は日曜だからな、あしたうんと叱ってやろう……うん、そうか、また喧嘩をしおったのか……何、勝った?……うん、それやえらい、でかした、でかした……」
 父は母が迫れば迫るほど呑気だった。

 母はたべ物にずいぶん気むずかしかった。ことに飯にはやかましかった。
「僕のもめっかちだよ。」
 母が飯の小言を言うと、僕もすぐそれについて雷同した。
「心が曲っていると、めっかちのご飯が行くんだ。お父さんのなんか、それやおいしい、いいご飯だ。」
 僕は父がこう言うんで、ほんとうかしらと思って、無理に父の茶碗の飯を食って見た。しかしそれは、勿論、やはりめっかちだった。
 父はこんなふうで、女中達にも小言一つ言ったことがなかった。

 父は家のことも子供のこともすっかり母に任しきりにしていたのだ。それで、小言も言わない代りに、家のことや子供等とはまるで没交渉でいたのだ。朝早く隊へ出て、夕方帰って来て、夜は大がい自分の室で何か読むか書くかしていた。で、子供等は朝飯と夕飯の時のほかは、めったに父と一緒のことはなかった。
 それでも父は僕を軍
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