快を一人で楽しむことはできなかった。そして友人にはみな、強いるようにして、その一読をすすめた。自然科学に対する僕の興味は、この本で初めて目覚めさせられた。そして同時にまた、すべてのものは変化するというこの進化論は、まだ僕の心の中に大きな権威として残っていたいろんな社会制度の改変を叫ぶ、社会主義の主張の中へ非常にはいりやすくさせた。
「何でも変らないものはないのだ。旧いものは倒れて新しいものが起るのだ。今威張っているものが何だ。すぐにそれは墓場の中へ葬られてしまうものじゃないか。」

 しかし、僕にはまだ、何かの物足りなさがあった。母が死んだ、というようなこともほとんど忘れたようにはしていたが、次意識の中ではよほどさびしかったに違いない。また、礼ちゃんのことはやはり同じように忘れたようにはしていたが、幾年も続けて来た同性のいわゆる恋をまったく棄てた僕は、その方面でもよほどさびしかったに違いない。友人といえば、さっき言った幼年学校の落武者連だけだったが、それもただ同じ境遇から互いに励み合ったというほどのことで、本当に打解け合った親しい間柄ではなかった。
 たぶんそんな餓えを充たすのだったろ
前へ 次へ
全234ページ中179ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング