をあげて打つまねをしながら、ちょっと僕をにらんだかと思うと、そのままばたばたと駈けだしてうちへはいってしまった。
 僕はぼんやりしたようになってうちへ帰った。

 翌日、礼ちゃんはまたうちへ来た。そしてその後も、毎日、日に一度はきっとやって来た。
 母の死骸がうちにあった間は、二人とも顔を見合わしても先夜のことなどまるで忘れたようにしていたが、そしてまた実際いろんなほかの人達と一緒に母の死についての歎きに胸を一ぱいにしていたが、葬式が済んだ翌日からは、二人とも顔さえ合せれば、もう母の死のことなどは忘れたようになって、そしてまだほんの子供のような気になって、先夜二人で門を出た時と同じように、一緒に笑い興じたり騒いだりばかりしていた。
 例の綺麗な細君もほとんど毎日のように見舞いに来た。そして二人のそんなふうなのをそばで黙ってにこにこしながら眺めていて、時々、本当にお二人は仲善さそうね、なぞとからかっていた。
 お祖母さんは苦々しそうにして、いつも顔をしかめていた。
 この綺麗な細君は、その後、日露戦争の留守中に何か不都合なことがあったとかで離縁になったというように聞いたが、そしてそれから
前へ 次へ
全234ページ中163ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング