った。僕はそこに突ったったまま、一体どうしたことなんだろうと思いながら、ぼんやりしていた。
そこへ、それが誰だったかはもう忘れてしまったが、とにかく母と親しくしていたそして僕も好きだったある軍人の細君がはいって来た。
「あなたはまあどうしたんです。お先きにいらっしたんですか。」
彼女もやはり目を泣きはらしながら、しかししっかりとした口調で叱るように言った。僕はその「お先きに」という言葉が何のことだか分らなかった。しかし、とにかく、
「いや、僕は今東京から来たんです。」
とだけ答えた。
「それじゃあなたは新潟へはいらっしゃらなかったんですか。」
「え、行きません、母は新潟にいるんですか。」
「ああ、それじゃあなたは何にも知らないんですね。まあ……」
と言いながら彼女はほろほろと涙を流した。
「母はもう死んだんですか。」
「ええ、きのう新潟病院でおなくなりになりました。そして、きょう、もうすぐみなさんでこちらへお帰りの筈です。」
僕はそう聞くと、なるほどうちのものは誰もいないなと気がついた。そして同時にまた、初めて自分で電報というものを受取った僕が、その差出人のところはちっとも見
前へ
次へ
全234ページ中153ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング