満ちていた。
学校での僕のお得意は語学と国漢文と作文とだった。そして最近では、学課は大がいそっち除けにして、前にも言ったように当時流行のロマンティクな文学に耽っていた。そして僕はその作物や作者の自由と奔放とにひそかに憧れていたのだ。
「君等は軍人になって戦争に出たまえ。その時には僕は従軍記者になって行こう。そして戦地でまた会おう。」
僕は軍人生活がいやになった時、よく学友等とそんな話をした。が、あながち新聞記者になろうというのではなく、ただぼんやりと文学をやろうと思っていたのだ。そして戦争でもあれば、従軍記者になって出かけて行って、「人の花散る景色面白や」というような筆をふるって見たいと思っていたのだ。
僕はまず高等学校にはいって、それから大学を出ようと思った。そしてその前に、どこかの中学校の上級にはいって、その資格を得なければならないと思った。が、それには、もう英語をほとんど忘れてしまった僕は、どこかフランス語をやる中学校を選ばなければならなかった。そしてその中学校は学習院と暁星中学校と成城学校との三つしかないことを知っていた。
僕はその夏東京で買った『遊学案内』をひろげて見
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