手紙を見た時、どういうつもりなのか、北川大尉の気持がちっとも分らなかった。

 下士どもの僕に対する追窮はますます残酷になった。そしてついに、もう一度、あぶないところで退学されかかった。
 四月の半ば頃に、全校の生徒が、修学旅行で大和巡りに出かけた。奈良から橿原神宮に詣でて、雨の中を吉野山に登って、何とかというお寺に泊った。第二期生だけがほかの宿で、第四期生と僕等とが一緒だった。
 修学旅行や遊泳演習の時には、それがほとんど毎晩の仕事であったように、「仲間」のものは左翼や下級生の少年を襲うた。その晩も僕等は、坂田と一緒に、第四期生の寝室に押しかけた。
 その途で僕は、稲熊軍曹がその室のふすまの隙間から、僕等を窺っているようなのを察した。が、そうした場合によくなるようになれという気になる僕は構わず目ざす方へ進んでいった。
 しばらくすると、広い室の向うの障子が少し開いて、そこから軍曹らしい顔が見えた。僕はある少年の(十一字削除)いたところであった。軍曹の顔が引っこんだ。まだその辺をうろついていたらしい坂田は、急いで反対の方の側の障子から逃げた。僕は黙って軍曹の引っこんだあとを見ていた。

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