たらした。
 ある日、偶然僕は僕のからだのある一部分に、うぶ毛ではない黒い毛の密生して来ていることを発見した。僕はそれが非常に恥かしかった。これは僕と同じ年の友達には勿論、一つ二つ年上の友達にもまだ見ないことだったのだ。僕は幾度も、あるいは便所で、あるいは自分の室で、そっとそれを(十二字削除)した。が、いつの間にかまたそれが前よりも、もっと(五字削除)して来るのだった。
 それとほとんど同時頃に、僕はほんとうの自慰を覚えた。前にお花さんとやったほんの遊びが、こんどは(十三字削除)なったのだ。
 それ以来僕は机の前に長い間坐って本を読むことができなくなった。一時間も坐っていると、(五字削除)して来て、どうしてもじっとしていることができなかった。そして一日に二度も三度も自慰に走った。
 勉強家だった僕はすっかり怠けものになってしまった。

 僕は父や母が少しでも猥りがましいことをしたり、そんな話をしているのを見たことも聞いたこともなかった。
 従卒や馬丁が女中とふざけているのはよく見た。馬丁はほかから通って来るのでそれほどでもなかったが、従卒は書生か下男同様に泊りこんでいるので、始終女中とふざけ合っていた。従卒の室へはいって行って、従卒と女中とが今相撲を取っているのだというところを見たこともあった。また、女中が真赤な顔をして、息をきらしながら着物の前を合せ合せ従卒の室から飛び出て来るのにぶつかったこともあった。やがてこの女中はその従卒の子を孕んで宿にさがった。
 僕等がいた片田町の裏の小人町(おこひとまち)というのは淫売町だった。片田町の一方のはじの、西ヶ輪[#底本では「西ケ輪」]に近い部分も、やはりそうだった。日曜の夕方そこを通ると、きっと酒に酔っぱらった兵隊が、真白な女の頸にかじりついているのが見られた。
 一度、馬丁に連れられて、西ヶ輪[#底本では「西ケ輪」]の何とか温泉といったお湯屋へ行った。真白な頸の女が大勢はいっていた。男も二、三人まじっていた。馬丁は僕に待っていろと言って、自分一人その中へはいって行った。男と女とが湯船の中に入りまじって、キャッキャッと言って騒いでいた。僕はいやになって、馬丁がとめるのも聞かずに、一人で家へ帰った。

 が、僕自身は女の友達とはだんだんに遠ざかって行った。
 学校が別になってめったに会う機会のなくなった光子さんは、折々その小
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