た。
 彼等は僕の「生意気」な事実をいろいろと挙げて、国の第二期生等に僕の処分を迫った。国の第二期生には浅野という「仲間」の首領がいた。が、彼にもそれをどうともすることもできなかった。また、国の第二期生の中にもひそかに僕を憎んでいる奴等があった。その結果僕はしばしば殴られた。大勢で取り囲んで、気をつけの姿勢をとらして置いて、ぽかぽか殴るんだ。石川県の奴等もよくこうして殴った。
 この制裁にはいっさい手を出すことができなかった。古参生には反抗することができないのだ。僕はただ倒れないだけの用心をして黙って打たれていた。倒れると、蹴られる恐れがある。が、げんこで殴られるだけなら高が知れている。そして僕は、できるだけ落ちついて、そのげんこの飛んで来るたびに一つ二つと腹の中で勘定していた。
 その勘定のできる間は、どんなにひどく打たれても我まんができた。が、どやどやと大勢が一ぺんにのしかかって来て、どいつがどう殴るんだか分らなくなると、我まんができなくなった。ことに、後ろや横からそっと蹴る奴があったりすると、そしてこれは実によくあったのだが、もうどうしても我まんができなかった。が、気をつけの姿勢のまま手出しをすることのできない僕は、ただ黙ってそいつを睨みつけることのほかに仕方がなかった。

 前に班長という言葉を使ったが、これは下士官で、生徒監の士官を助けて、生徒の監督をしていた。それが一級に曹長一人と軍曹一人といた。
 河合軍曹は僕を可愛がって、大がいのことは大目に見てくれた。よくいろんな犯行を見つけたが、いつも大きな声で怒鳴るだけで、めったにそれを生徒監に報告することはなかった。
 が、間もなくこの河合軍曹が転任になって、何とかいうばかに長っ細い曹長が来た。この曹長はよく妙な手帳をひろげては、自習室を廻ってみんなの顔とそれを見くらべていた。ある時僕はそっとその手帳をのぞきこんで見た。そこには、勇敢とか粗暴とか寛仁とか卑劣とかいうような言葉がならんでいて、その下に二、三行ずつその説明らしい文句がついていた。曹長はきっと、この手帳の中にある二字ずつのどれかの言葉によって、みんなの性格をきめていたのだ。
 曹長は来るとすぐ僕を変な目で見だした。またこの曹長が来ると同時に、それまで僕等が坊ちゃん軍曹だとかガルソン軍曹だとかあだ名していたほどおとなしかった、もう一人の班長の稲熊軍曹
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