組織や制度に対しては、そのほとんど万能ともいうべき大勢力を、慄然として怖れざるを得ない。その破壊を外にして個人の完成を称うるがごとき奴等は、夢の中に夢見る奴等である。
 なまけものに飛躍はない。なまけものは歴史を創らない。

 俺は再び俺のまわりを見た。
 ほとんどなまけものばかりだ。鎖を造ることと、それを自分のからだに巻きつけることだけには、すなわち他人の脳髄によって左右せられることだけには、せっせと働いているが、自分の脳髄によって自分を働かしているものは、ほとんど皆無である。こんな奴等をいくら大勢集めたって、何の飛躍ができよう、何の創造ができよう。
 俺はもう衆愚には絶望した。
 俺の希望は、ただ俺の上にかかった。自我の能力と権威とを自覚し、多少の自己革命を経、さらに自己拡大のために奮闘努力する、極小の少数者の上にのみかかった。
 俺達は、俺達の胃の腑の鍵を握っている奴に向って、そいつらの意のままにできあがったこの工場の組織や制度に向って、野獣のように打っつかって行かなければならぬ。
 俺達は、恐らくは最後まで、極小の少数者かも知れぬ。けれども俺達には発意がある、努力がある。そして
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