向を指導することにある。進はかつてその容貌もっとも僕に似ると言われていたが、あるいはその腕白もそうなのだろう。それにあの子は少し吃りやしないか。よくもいいところばかり似るものだ。その後学校の方はどうなったか。勇は何かしでかして家に来られないようになっているとのことだったが、まさか今なおそんな事情が続いているのではあるまいね。彼は今、少年期から青年期に移る、肉体上および精神上に一大激変のあるもっとも危険な年頃にある。そして出づれば工場の荒い空気の中、帰れば下宿屋の冷たい室の中、というはなはだ情けない、そしてはなはだ危険なところにある。休日などにはなるべく家へ来て、一日なり半日なりの暖かい歓を尽させてやってくれ。
 伸の徴兵検査はどうなったか。弟妹等一同に留守中の心得というようなものを書きたいと思ったが、許されないので致し方がない。五カ月の後相ともに語るまでおとなしく待つよう伝えてくれ。
 こんどの秋水等の事件について二つお願いがある。一つはかつて巣鴨の留守中に借りた三十円の金をこの際返してもらいたい。こんな時にでも返すのが、返す方でもはなはだ心持よし、また返される方でもはなはだありがたか
前へ 次へ
全118ページ中98ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング