mりそむる頃、僕がまだようやく三十二、三、男盛りの登り坂にかかる時だ。身体は大切にして居ればそう容易く死にもしまい。
エスペラントは面白いように進んで行く。今はハムレットの初幕のところを読んでいる。英文で読んだことはないが、仏文では一度読んだことがある。しかしこんどほど容易くかつ面白くはなかったようだ。
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宛名・日付不明
昨日から特待というものになった。と言ってもわかるまい、説明をしよう。社会主義者が人類を別けて紳士閥と平民との二になすがごとく、監獄では待遇上被告人を二つの階級に別けてある。しこうしてその一は雑房に住み、他の一は独房に住むの差異がある。……すなわち独房をもって監獄における紳士閥として置こう。
平民の方は少しも様子を知らないが、この紳士閥の方にはまた二つの階級がある。一は特待と言うが、一は何と言うのかたぶん名はないと思う。特待になると純粋の特権階級で、一枚の布団が二枚になり、朝一回の運動が午前と午後との二回になり、さらに監房の中に机と筆と墨壷までがはいる。この上に原稿を書いて『研究』や『光』に送ることができたら、被告人生活というものもなかなかオツなものなん
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