セけれど。
白熊、孤剣、起雲、世民の徒は、来るとすぐにこの特権階級にはいったようだ。他のものはみな平民の部に属して居る。少翁なども勉強ができぬと言って大いにコボシているそうだ。僕のところは机だけは初めから入れてくれた。たぶん特待候補者とでも言うのであったんだろう。
自分が特権階級にはいって見れば、なるほど気持の悪いこともないが、その代りに特権褫奪という恐れが始終頭に浮ぶ。紳士閥が、軍隊だとか、警察だとか、法律だとかを、五百羅漢のように並べ立てて置くのも、要するにこの特権維持に苦心した結果に過ぎないのだ。
*
折々着物についての御注意ありがとう。天にも地にもたった一枚の羽織と綿入れだもの、大切にしなくて如何しよう。ただ困るのは綻びの切れることだが、これは糸を結んで玉を作って、穴の大きくならぬようにして置く。もっとも看守さんに話をすれば針と糸とを貸して下さるのだけれど、食品口という四寸四方ばかりの小窓を開けて「看守殿お願いします、お願いします」と言わなければならぬのがいやさに、ツイ一度もいわゆるお願いしたことがない。
僕等の監房の窓の下は、女監へ往来する道になっている。毎日十
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