詳しい事情というのを僕から足下に話したいから、この手紙の着次第、至急面会に来てくれ。これはすでに典獄殿にも願ってある。
この手紙の公表は禁ずる。
たしか去年の今日は巣鴨を放免になった日だったね。
*
堀保子宛・明治四十一年十二月十九日
もうここの生活にもまったく慣れてしまった。実を白状すれば、来た初めには多少の懸念のないのでもなかった。ああこの食物、ああこの労働、ああこの規則、これではたして二カ年半の長日月を堪え得るであろうか、などと秋雨落日の夕、長太息をもらしたこともあった。面会のたびごとに「痩せましたね」と眉をひそめられるまでもなく、細りに細って行く頬のさびしさは感じていた。しかし月を経るに従ってこれらの憂慮も薄らいで来た。そしてついに、今日ではそれがほとんどゼロに帰してしまったのみならず、さらに余計な余裕さえできて来るようになった。
それに刑期の長いということが妙に趣きを添える。今までのように二、三カ月の刑の時には、入獄の初めの日からただもう満期のことばかり考えている。退屈になると石盤を出して放免の日までの日数を数える。裏を通る上り下りの汽車の響きまでがいやに帰思
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