金がいります。まずこの間に百冊の本は読めるでしょうが、その価は決して三百円を下りますまい。そこで私の最後の無心として、父上にお願いします。もし私のような不孝児でもなお一片子として思うのお情けがありますならば、また私をして単純なる謀反人としてこの身を終らしめず、なお一学者としての名を成さしめんと思召すならば、何卒この三百円だけの金を恵んで下さい。もっとも一時でなくとも、本年と来年とに三度ほどに分けて下すっても宜いのです。
金と言えば例の電車事件の時の保証金、あれはなおしばらくの間お貸しを願います。実は請取書がなくとも返して貰うことができたので、私の入獄のものいり[#「ものいり」に傍点]の際にほとんど費ってしまってあるのです。はなはだ申し訳もありませんけれど、何卒お許しを願います。
私は獄中すこぶる健康でいます。留守居の保子は友人や同志の助けによってともかくもその日を暮して行けそうです。この二点は御安心を願います。
最後に御両親および諸兄弟の健康と祝福を祈ります。
父上様
保子に言う。この手紙を持って静岡へ行って、そしてなおいろいろ詳しい事情を足下から話して来てくれ。また、その
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