セかわけ[#「わけ」に傍点]の分らない弁証法などという論理法によって、数千ページの大冊の中にその矛盾背理の理論をごまかし去るの技倆を持たない。しかし彼は、いかなる難解甚深の議論といえども、きわめて平易なる文章と通俗なる説明とを用いて、わずかに十数ページの中にこれを収むるの才能をもって居る。世界の労働者の中に、『資本論』を読んだものは幾人も居ない。しかし『パンの略取』と『謀反人の言葉』は、少なくともラテン種の労働者の間に愛読されている。
クロは常に科学的研究法に忠実である。その『謀反人の言葉』は、まず近世社会の一般の形勢に起して、国家と資本と宗教との老耄衰弱し行くさまと、またその荒廃の跡に自由と労働と科学の新生命との萌え出づるさまを並び描いて、そして近世史の進化の道が明らかに無政府共産主義にあることを説明して、最後に「略収」の一章においてその大思想を略説結論して居る。その中の主なる、「青年に訴う」、「パリ一揆」、「法律と権威」、「略収」の数章は、すでに小冊子として英訳が出て居る。
この露国の『謀反人の言葉』は、今東京監獄の一監房の隅において、その友と語るの自由なき日本の一謀反人によっ
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