〆たものだ。その時には、何もかも、すっかり監獄生活にアダプトしてしまうのだ。
本だってそうだ。今の間はまだほんのひまつぶしに夢中になって読んでいるが、その時になれば、ちゃんと秩序だった本当の落ちついた読み方になる。
*
伊藤野枝宛・大正八年八月八日
シイツがはいってから何もかもよくなった。あれを広くひろげて寝ていると、今まで姿の見えなかった敵が、残らずみんな眼にはいる。大きなのそのそ匐っている奴は訳もなくつかまる。小さなぴょんぴょん跳ねている奴も、獲物で腹をふくらして大きくなっているようなのは、すぐにつかまる。こんな風で毎晩毎晩幾つぴちぴちとやっつけるか知れない。蚊の防禦法もいろいろと工夫した。
差入れの飯にもなれた。もう間違いなくみんな食べる。そしてかなりに腹へはいる。大便も日に一回になった。もうこれですべてがこっちのものになったのだ。
「あんなに痩せて、あんなに蒼い顔をしていちゃ」と大ぶ不平のようだったが、どうも致し方がない。あの暑い日に、二十人ばかりがすしのように押されて、裁判所まで持ち運ばれたのだ。途中僕は坐る場所がなくて、人の膝の上に腰かけていたくらいだ。
実
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