式は止せ。寺へ金を送ったりするのも無用。
 僕の出る日には、子供等はうるさいからみな学校へやって置け。決して休ませるには及ばん。
 本をもう五、六冊頼む。ただし来月上旬でいい。『新仏教』読んだ。お為さんがアッパレ賢帰人となりすましたのはお祝い申す。
 出る前に、ふろしきを差入れるのを忘れないよう、いつかは本当に困った。着物は洋服がよかろう。
 堺は久しぶりで大きな声で笑っていようね。山川はにやりにやりか。
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市ヶ谷から(四)

   *
 伊藤野枝宛・大正八年八月一日
 はじめての手紙だ。
 まだ、どうも、本当に落ちつかない。いくら馴れているからと言っても、そうすぐにアトホオムとは行かない。監獄は僕のエレメントじゃないんだからね。まず南京虫との妥協が何とかつかなければ駄目だ。次には蚊と蚤だ。来た三晩ばかりは一睡もしなかった。警視庁での二晩と合せて五晩だ。しかし、いくら何だって、そうそう不眠が続くものじゃない。何が来ようと、どんなにかゆくとも痛くとも、とにかく眠るようになる。今では睡眠時間の半分は寝る。
 どんなに汗が出てもふかずに黙っている僕の習慣ね、あれがこのかゆいの
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