室にはいって一礼するかしないうちに、
「貴様は社会主義者だな。それで監獄の規則まで無視しようと言うんだろう。減食三日を仰せつける。以後獄則を犯して見ろ、減食ぐらいじゃないぞ。」
と恐ろしい勢いで怒鳴りつけられた。
「ええ、何でもどうぞ。」
と僕は、外国語学校の一学友の、海軍中将だとかいう親爺の、有名な気短か屋で怒鳴り屋だというのを思出しながら、(典獄はこの学友の親爺と言ってもいいくらいによく似ていた)そのせりふめいた怒鳴り方の可笑しさを噛み殺して答えた。
「何に!」
と典獄は椅子の上に上半身をのばして正面を切ったが、こちらが黙って笑顔をしているので、
「もういいから連れて帰れ。」
と、こんどは僕のうしろに不動の姿勢を取って突っ立っている看守に怒鳴りつけた。僕は幼年学校仕込みの「廻れ右」をわざと角々しくやって、典獄室を出た。これは幼年校時代の叱られる時のいつもの癖であったが、この時は皮肉でも何でもなく、思わずこの古い癖が出たのだった。
幼年学校時代の癖と言えば、もう一つ、妙な癖をやはりこの監獄で発見した。
これはその後よほど経ってからのことだが、やはり何か叱られて、看守長室
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