んだ。それだけならまだいい。この訓示が済んで、一行八人(電車事件の方は一足先きに来た)が別々に隣り合った室へ入れられた時、こんどは受持の看守が、
「つまらんことで大ぶ食ったもんだな。一度はいると大ぶ貰えるという話だが、こんどはみんな幾らずつ貰ったんだ。」
 という情けないお言葉だ。政党か何かの壮士扱いだ。さすがの堺を始めみんなは顔見合せて苦笑するの外はなかった。ただ、ふだんは神経質に爪ばかり噛っているように見えたのが、入獄以来その快活な半面をしきりに発揮し出した荒畑が、「アハハア」と大きな声を出して笑った。看守はけげんな顔をしていた。
 上典獄を始め下看守に至るまでが、ほとんどすべてこの調子なのだからやり切れない。
 それに、第一に期待していた例の鰯が、夕飯には菜っ葉の味噌汁、翌日の朝飯が同じく菜っ葉の味噌汁、昼飯が沢庵二た切と胡麻塩、と来たのだからますます堪らない。
 加うるにこんどは今までの禁錮と違って、懲役と言うのだから、一定の仕事を課せられる。しかもその仕事が、東京監獄ではごく楽で綺麗な経木あみであったのが、南京麻の堅いのをゴシゴシもんで柔らかくして、それで下駄の緒の心をなうの
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