俊寛[#「鬼界ケ島の俊寛」はゴシック体]
 出て一カ月半ばかりして、こんどは堺や山川やその他三人の仲間と一緒に、例の屋上演説事件でまた入れられた。既決になると、その他三人というのが東京監獄に残されて、堺と山川と僕とが巣鴨へ送られた。
「やあ、また来たな。」
 と看守や獄友諸君は歓迎してくれる。
「またやられたよ。しかしこんどは、まだ碌に監獄の気の抜けないうちに来たのだから、万事に馴れていて好都合だ。」
 僕は当時われわれの機関であった『日本平民新聞』の編集者で、その後幸徳と一緒に死刑となった森近運平に宛てて、こんな冒頭の手紙を書いて送った。
 山口は何かの病気で病監にはいっていた。山川はたしかほかの建物へやられたように思う。石川、僕、堺という順で、相ならんでいた。
 堺はもう格子につかまって「ちょいとお髯の旦那」をやる当年の勇気も無くなっていたが、石川と僕とは盛んに隣り合っていたずらをした。運動の時にそとで釘を拾って来て、二人の室の間の壁に穴をあけた。本やノートに飽きるとその穴から呼び出しをかける。石川が話している間は僕は耳をあてている。僕が話をする間は石川が耳をあてる。ところがこれが
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