くとも二、三十カ所は噛まれるのだもの、痛くてかゆくて、寸時も眠れるものじゃない。僕が二、三日して巣鴨に帰ると、獄友諸君からしきりに痩せた痩せたというお見舞いを受ける。
「ただ東京監獄で面白かったのは鳩だ。ちょうど飯頃になると、窓のそとでばたばた羽ばたきをさせながら、妙な声をして呼び立てる。試みに飯を一かたまり投ってやる。十数羽の鳩があわただしく下りて来て、瞬く間に平らげてしまう。また投ってやる。面白いもんだから幾度も幾度も続けざまに投ってやる。飯をみな投ってしまって汁ばかりで朝飯を済ましたこともある、あとで腹がへって困ったが、あんな面白いことはなかった。
「巣鴨に帰る。大変早かったね、裁判はどうだった。などと看守君はいろいろ心配して尋ねてくれる。何だか[#「何だか」は底本では「何だが」と誤記]気も落ちつく。本当にうちへ帰ったような気がする。
「しかしこのうちにいるのも、もうわずかの間となった。久しいイナクティブな生活にもあきた。早く出たい。そして大いに活動したい、この活動については大ぶ考えたこともある。決心したこともある。出たらゆっくり諸君と語ろう。同志諸君によろしく。」
鬼界ケ島の
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