さっきから蚊帳の中に寝ている君等を見ながらつくづく思ったんだ。こうして格子を間にして君等の方を見ていると、実際どっちが本当の囚人だか分らなくなって来るよ。」
看守は笑いながらではあるが、しみじみとこぼして言った。
それからしばらくして幸徳に宛てた手紙を出した。
「暑かった夏も過ぎた。朝夕は涼しすぎるほどになった。そして僕は『少し肥えたようだね』などと看守君にからかわれている。
「この頃読書をするのにはなはだ面白いことがある。本を読む。バクーニン、クロポトキン、ルクリュ、マラテスタ、その他どのアナーキストでも、まず巻頭には天文を述べてある。次に動植物を説いてある。そして最後に人生社会を論じている。やがて読書にあきる。顔をあげてそとを眺める。まず目にはいるものは日月星辰、雲のゆきき、桐の青葉、雀、鳶、烏、さらに下っては向うの監舎の屋根。ちょうど今読んだばかりのことをそのまま実地に復習するようなものだ。そして僕は、僕の自然に対する知識のはなはだ浅いのに、いつもいつも恥じ入る。これからは大いにこの自然を研究して見ようと思う。
「読めば読むほど、考えれば考えるほどどうしてもこの自然は論理だ
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