をひった。そしてそのたんびにこの少年はこんなことを言ってはみんなを笑わしていた。隣りで聞いている僕も時々吹き出した。
 仕事がいやになるとみんなはよく便所へはいって一と休みした。
「いつまで便所にはいってるんだ。」
 時々は看守も二、三度廻って来てまだ同じ人間が便所にしゃがんでいるので小言を言う。すると少年は「どうも難産で」と言いながら「うん、うん」と唸って見せる。みんなはどっと笑う。看守も仕方なしに「いい加減にして出ろ」と言い棄てて行ってしまう。
 この隣りの笑い声で、どれほど僕は、長い日の無聊を慰められたか知れない。
 獄中からの手紙[#「獄中からの手紙」はゴシック体]
 僕の生活は、毎朝起きるとまずこの広い室のふき掃除をして、あとは一日机に向って読み書き考えてさえいればいいのだった。
 本は辞書の外五、六冊ずつ手許に置くことができた。そしてそれを毎週一回新しいのと代えて貰うことができた。ペンとインクとノートとは特別に差入れを許された。
 その頃の生活を当時の気持そのままに見るために、獄中から出した手紙の二、三を次に採録して見る。いずれも最初の時のものだ。
「暑くなったね。それでも
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