その後また何かの機会に減刑また減刑されて、ついに放免になったのだそうだ。一刻者は最初からの、しかも正直者というほどの意味であったらしいが、入獄以来その一刻から出た犯罪を後悔するとともに、その一刻をただ獄則厳守のことにのみ集中させて、ますます妙な一刻者になったのらしい。
びっこの少年[#「びっこの少年」はゴシック体]
隣りの室には十人ばかり片輪者が同居していた。その中に、七十幾つかの老人と、森の中にでもいればどうしてもチンパンジイとしか思えないような顔つきの若い大男と、尻が妙に出っぱってびっこ[#「びっこ」に傍点]をひいて歩く少年とがいた。チンパンジイは盲というほどでもないが両眼ともよく見えなかったらしい。高い眉の下にひどく窪んだ細い眼をいつもしょぼしょぼさせていた。この男は僕がいる間に一度ちょっと出てまたすぐはいって来た。みんなほんのこそこそ盗棒らしかった。
この少年はひょうきん者で、一日みんなを笑わせては騒いでいた。誰かがブッと屁を放る。するとこの少年は、「うん、うん、よしよし」なぞと、赤ん坊でもなだめすかすようなことを言う。一日に幾度とちょっとは数え切れないほどみんなはよく屁
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