守の大して意地悪そうでもない平凡な顔をまでも妙に不愉快にさせる。「石の家は人の心を冷たくする」というロシアの諺が思い出されて、ちょいちょい窃み見するようにして僕の方を見るその看守を、この男はきっと冷たい心を持っているに違いないなぞと思わせる。
 やがて、しばらく廊下でガタガタ騒がしい音がすると思っていると、看守が扉を開けて「出ろ」と言うので出て見ると、二十人ばかりの囚人が向い合って二列にコンクリートの上のうすべりに坐って、両手を膝に置いて膳に向っている。僕もその端に坐った。
「礼!」
 初めての僕にはちょっと何の意味だか分らない、大きな声の号令がかかった。みんなは膝に手を置いたままの形で首を下げた。僕はぼんやりしてみんなのすることを見ていた。
「喫飯!」
 また何のことだか分らない、ただぱあんというのだけがはっきりと響く、大きな声の号令がかかった。みんなは急いで茶碗と箸とを手に持った。そしてめいめい別な大きな茶碗の中に円錐形の大きな塊に盛りあげられている飯を、大急ぎに、餓鬼道の亡者というのはこんなものだろうと思われるように、掻きこみ始めた、どんぶりから茶碗へ飯を移す、それを口に掻きこむ
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