、呑みこむ、また掻きこむ、呑みこむ。その早さは本当に文字通りの瞬く間だ。僕は呆気にとられて見ていた。
「何千何百何十番!」
看守がまた大きな声で怒鳴った。僕はびっくりしてその方を向いた。
「何をぼんやりしているんだ。早く飯を食わんか。」
看守は僕に怒鳴っているんだ。僕は自分の襟をうつむいて見て、その何千何百何十番というのが自分のきょうからの名前だということに初めて気がついた。そして急いで茶碗をとりあげた。が、僕がその円錐形の塊の五分の一くらいをようやくもぐもぐと飲みこんだ頃には、もうみんなは最初のようにその膝に手を置いてかしこまっていた。
その後も始終見たことではあるが、囚人等の飯を食うのの早いのは実に驚くほどだ。まるで歯なぞというものは入用のないように、ただ掻きこんでは呑みこむ。
「どうも仕方がないんです。いくらからだに毒だからと言っても、どうしてもああなんです。しかしその言い分を聞くと、ずいぶん無茶なことではあるが、多少の同情はされるのです。よく噛んでいた日にゃ、すぐに消化れて腹が空って仕方がないと言うんですな。」
坊さんは坊さんらしく、ある時教誨師とその話をしたら、眉を顰
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