いた。
 僕は折々差入れの卵やパンを殺人君に分けてやって、その無邪気な気焔を聞くのを楽しみにしていた。
 殺人君は宣告後三年か四年か無事でいて、たぶん証拠不十分でなかったのだろうと思うが、その後また死一等を減ぜられて北海道へやられたそうだ。

   巣鴨の巻

 ちょいと眼鏡の旦那[#「ちょいと眼鏡の旦那」はゴシック体]
 巣鴨行きと言えば、世間では、電車は別として多少気の触れた人間のことを指すが、僕等の間では監獄行きのことになる、だがこの僕等という奴等は世間からはずいぶん気違い扱いされているのだから、どっちにしても要するに同じことになるのだろうが。
 この巣鴨へは都合三度行った。と言っても実は二度で、最初の新聞紙条令違犯で食っているうちに、二度目の新聞紙条令違犯がきまって、前のが満期になるとすぐ引続いてあとのを勤めた。次が治安警察法違犯。

 たぶん鍛冶橋のだろうと思うが、古いいわゆる牢屋が打ち壊されて、石と煉瓦との新しい監獄がここにできた時、その古い牢屋の古木で古い牢屋そのままの建物が一つここの一隅に建てられた、という話だ。そしてこの建物は、めくら[#「めくら」に傍点]だとかびっこ
前へ 次へ
全61ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング