静まった彼は、こんどはいつものように「君」と呼びかけて、偽造君におとなしく詰問した。
「いや、実際僕はちっとも悪い気もせず、また悪いとも思っちゃいない。まるで当り前のようにして今までそうやって来たんだ。それに僕の女房はいつでも一番たくさん儲けさしてくれたんだ。」
 偽造君はまだ蒼い顔をして、おずおずしながら、しかし正直に白状した。品はいいがしかしどこか助平らしい、いつも十六、七の女を妾にしているという詐欺老人は「アハハハ」と大きな口を開いて嬉しそうに笑った。殺人君は呆れた奴等だなというように憤然とした顔はしながら、それでもやはりしまいには詐欺老人と一緒になってにこにこ笑っていた。
 偽造君と詐欺老人とは仲善く一緒に歩いていた。二人は「花」の賭け金の額を自慢し合ったり、自分の犯罪のうまく行った時の儲け話などをしていた。偽造君は前にロシア紙幣の偽造をして、ずいぶん大儲けをしたことがあるんだそうだ。詐欺老人のは大抵印紙の消印を消して売るのらしかった。そして老人は、
「こんど出たら君がやったような写真で偽造をして見ようか。」
 と言いながら、しきりに偽造君に、写真でやる詳しい方法の説明を聞いて
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