やられたといううわさが獄中にひろがった。
 出歯亀君[#「出歯亀君」はゴシック体]
 出歯亀にもやはりここで会った。大して目立つほどの出歯でもなかったようだ。いつも見すぼらしい風をして背中を丸くして、にこにこ笑いながら、ちょこちょこ走りに歩いていた。そしてみんなから、
「やい、出歯亀。」
 なぞとからかわれながら、やはりにこにこ笑っていた。刑のきまった時にも、
「やい、出歯亀、何年食った?」
 と看守に聞かれて、
「へえ、無期で。えへへへ。」
 と笑っていた。
 強盗殺人君[#「強盗殺人君」はゴシック体]
 それから、やはりここで、運動や湯の時に一緒になって親しい獄友になった三人の男がある。
 一人は以前にも強盗殺人で死刑の宣告を受けて、終身懲役に減刑されて北海道へやられている間に逃亡して、また強盗殺人で捕まって再び死刑の宣告を受けた四十幾つかの太った大男だった。もう一人は、やはり四十幾つかの上方者らしい優男で、これは紙幣偽造で京都から控訴か上告かして来ているのだった。そして最後のもう一人は、六十幾つかの白髪豊かな品のいい老人で、詐欺取財で僕よりも後にはいって来て、僕等の仲間にはいった
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