』  
  馬場君が笑ひながら話した此の言葉が今ふいと僕の頭に浮んだ。
『さうだ。此の事を話ししよう。』
 僕は思ひがけないいい話の材料を捉へたので、話の順序の腹案をしに中庭へぶらつきに出た。

 斯うして僕がそとへ出てゐる間に、生田君の話も済み、有島生馬君の誰れだつたかの西洋の画家の話も済み、馬場君の近代社会文芸に就いての話も済んだ。そしてあと一人で、いよ/\最後の僕の番になつた。
 其の間に僕はちよつと委員室にはいつてお茶を飲んで休んでゐた。すると、一人の委員があはただしく室の中へ駆けこんで来た。
『おい、また警察から電話だよ。今日の演説会の責任者に出てくれとさ。』
『また、さつきの事なんだらう。うるさい奴だな。で、君は何んと云つたんだ。』
『うん、大杉先生を呼んだのは誰れだの、先生は演説をするかの、演題は何んだのと、いろんな事を聞きやがるんだ。僕は面倒臭いから何んにも知らんて云つて来たんだがね。とにかく待つてるんだから、誰れか出てうまくやつてくれよ。』
『本当にうるさい奴だな。ぢや、二三人で行つて、皆んなで電話口でわい/\云つて、それでもまだ何にか面倒な事を云ふやうだつたら、構ふ
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