かく座談とでもして置いてくれ給へ。』
僕は仕方なしに嘗つて自分の雑誌で或る雑録につけた題を思ひ出して云つた。そしてHが行つて了つたあとで、こんな事を考へてゐた。先づ病気の云ひ訳をして、演壇に椅子を持つて来て貰つて、そこへ腰かけながら何にか喋舌つて見よう。
さう決めて僕はそばにゐた馬場君の方を見た。馬場君も生田君と一緒に堺の応援に加はつてゐた。僕は二人ともよく思ひ切つて堺の選挙演説なぞに出たものだと思つてゐた。そして今、恐らくは人並みはづれた喫烟からだらうと思はれる馬場君の妙にくすぶつた、其の生活や年齢から見ても少しやつれ過ぎた顔を見ながら、ふといつか馬場君が話した其の亡兄の遺言と云ふのを思ひ出した。
『私への直接の遺言ではないんですがね。とにかく兄貴が或る人を介して私に伝へた、まあ遺言とも云ふべきものが、たつた一つあるんです。しかも、それが大ぶ変つた遺言だから面白いんです。日本のやうな国では、何にか少し人間らしい事をしようと思へば、どうしても牢にはいらなくちやならね。だからお前も其のつもりでうんと勉強をしろ。と云ふんですよ。ところが、どうも、此の遺言はなか/\果せさうもないんで……
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