の気取つた身振り口調で、生田君独特の社会問題の話をしてゐる。僕は講檀の横の弁士席に、馬場狐蝶君のそばに座を占めた。
生田君は先日来の、社会主義候補者たる堺の選挙運動の応援から、大ぶ社会問題に油が乗つてゐた。ふだんの雄弁よりも、一層の雄弁をふるつてゐた。場内には若い生気が充ち満ちてゐる。僕は直ぐに此のアトモスフエアに同化されて了つた。途中で一二度引つ返さうかとまで思つた疲れたからだをも忘れて、何にか気焔を吐いて見たい気持になつた。そこへHがやつて来た。
『演題は何んとして置きませう。今あそこへ張りつけようと思ふんですが。』
Hは小声で斯う云ひながら、講壇のうしろの貼紙を指さした。僕の名の上には演題未定としてある。
『あの儘でいいぢやないか。実際まだ未定なんだから。』
『ええ、しかしそれでも困りますから、何にか題を……』
『こつちも困るよ、さう早急ぢや……』
と僕はちよつと考へたが、勿論さう急に題が出来るものでもない。何にを話さうかすらまだ決まつちやゐないのだ。しかしHが笑ひながら黙つて僕の返事を待つてゐるのを見ると、何んとか云はなくちやならん。
『ではね、何にを話すか知れんが、とに
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