つげ》の木の胯《また》に頬白《ほおじろ》の巣があって、幾つそこに縞《しま》の入った卵があるとか、合歓《ねむ》の花の咲く川端の窪《くぼ》んだ穴に、何寸ほどの鯰《なまず》と鰻がいるとか、どこの桑の実には蟻がたかってどこの実よりも甘味《あま》いとか、どこの藪の幾本目の竹の節と、またそこから幾本目の竹の節とが寸法が揃《そろ》っているとか、いつの間にか、そんなことにまで私は睨《にら》みをきかすようになったりした。
しかしこうしている間にも、私らは祖父の家から独立した別の家に棲んでいて、村村に散っている親戚《しんせき》たちの顔を私はみな覚えた。母は五人姉妹の下から二番目で、四人もあるその伯母たちの子供らが、これがまたそれぞれ沢山いた。一番上の大伯母は、この村から三里も離れた城のある上野という町にいたが、どういうものだが、この美しい伯母にだけは、親戚たちの誰もが頭が上らなかった。色が白くふっくらとした落ちつきをもっていて、才智が大きな眼もとに溢《あふ》れていた。またこの大伯母はいつも黙って人の話を聞いているだけで、何か一言いうと、それで忽《たちま》ち親戚間のごたごたが解決した。ときどき実家のあるこ
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