た水の種類も、内地は勿論、外国のも歩いた先のを所持していることを話した。矢代はむかし幕府の将軍夫人が硯水を京都から取りよせる話を読んで、贅沢のたしなみ過ぎたるものと思っていたのも、事実いま東野の話で、日常の苦心の細やかさもそこまで深く分け入るものかと感服をあらたにした。
「それじゃ、筆と紙とならたいへんですのね。」千鶴子も同様に感動したらしかった。
「それはもう、これを云い出せばきりがない。筆だけでも幾千種あるか数知れないからな。僕は自分の好きなものを作らせるのだ。」と東野は云ってもう黙った。
千鶴子は茶の稽古はあると見えて、袱紗捌きも目立たず終え、古万古の壺に頭を下げると揺ってみながら、
「早くこれで詩をいただきたいわ。」と小声で机の上へそっと静に壺を返した。
東野は千鶴子のその様子を暫らく見ていてかすかに頷き、「それで良ろし」とどういうものかそう云うと、立って今度は金の星の模様の散っているガラス製の角壜を戸棚の奥から出して来た。そしてまた、
「これはヨルダン河の水ですがね、あそこへ行った知人が頒けてくれたものです。あなたはカソリックだと聞いていたからお見せしますよ。」
と云っ
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