不断に願ってやまぬ思想だったと思った。もしそれがなければ、身を灼く男の情念とは、何ものでもない腐肉の如きものだと思われるのであった。
「おろちだ俺は。」
 彼はそう思いながら草叢から眼を空に上げた。東野が抹茶を持って出て来たとき、高樹町の実家に帰っている真紀子が間もなく来ることを云って、今夜はみな揃って夕飯を共にしたいから時間があるかと訊ねた。
 矢代は礼を述べてから、さきに話に出た五十鈴川のお水を見せて貰いたいと頼んでみた。
「五十鈴川のは水質が最上だね。愛硯家はあの川裾の方の大寒中の水を汲んで硯にするのが例だが、僕のは菌のわかないようにカンフル注射をしてあるのだ。そうすると墨色もなかなか良い。」
 と云って、東野は棚から袱紗に包んだ古万古の壺を出した。矢代は抹茶を飲み終ってから卵形の壺を捧げるようにし、そして少し揺ってみると、たぶたぶとした水量の重みに脇下に爽やかな胴慄いを感じて頭を下げた。
「これもどうやら地球に見えて来た。」とひとり喜んで云っては、彼はまた子供のように水音を聞くのだった。
 なお東野は、硯水の質より墨色や発墨の美しさに相違の生じることを述べて、旅先きで蒐集して来
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