の身の上を知ったのも、真紀子に話されたということを考えると、矢代は、帰ってからの東野や真紀子の二人の交際も、自分の想像外のところまで深まっていることとも推測された。東野は作家としては退潮期に入り華華しい活躍を停止していたとはいえ、ときどき人の意表に出る大胆な作風で、想像力を重んじるものたちからは愛敬され、科学主義の作家たちからは疎んぜられる傾向があって、漸次に今は和紙会社の副業の方に熱心になり始めているのも、一つは東野の癖の多い趣味性によるのかもしれず、また彼の外遊の目的も文学上のことより、寧ろ和紙の販路の拡張のためもあったかと解された。
家の中は、呼鈴を押してみても暫らく静まり返っていて答えがなかった。千鶴子は裏庭へ廻ったり、雑草の中でひとり花を咲かせた美しい杏の樹を仰いだりしているとき、玄関が中から開いて東野の大きな顔だけ外を覗いた。
「どうもあなたらしいお宅ですね。すぐ分りますよ。」矢代は挨拶などこの東野にはする気にならず、始めから寛いだ気分で云った。
「荒涼としたもんだろう。僕も帰ってみて我ながら驚いたのさ。」
そう云う東野の後から、二人は人気のない廊下を渡り、樹の多い母屋
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