んな所だったわ。」
 過ぎ去ったことでも思い起せば現実になる、という哲学の見本めいて、口にして二人で云うと、忽ちそれは真実の重みをもって顕れ、二人でその思い出を支えるように沼に密集した睡蓮の周囲を廻っていくのだった。矢代は、モネーの日本好きは狂人のようでいつも自邸を日本趣味で溢れさせていた話や、彼が見たくてやみがたかった日本の夢の中で静に死んだその生涯の代表的傑作が、自分らの見た睡蓮の沼だったことなどを話してみた。
「でも、あなたはあのとき、そんなこと仰言らなかったじゃありませんか。これは地獄の絵だなんて、そう仰言ったわ。」と千鶴子は多少からかい気味に笑った。
「あのときはコーヒー一杯も飲ましてくれないものだから、つい腹立ちまぎれに失礼なことを云ったのさ。しかし、これでモネーの天国だと信じたものが、あの睡蓮の絵にこもっていたのなら、たしかにあの日の地獄よりもこの古沼の方が天国かもしれないからな。」
 矢代はそう云いながらも赤松を渡る風の音を聞き、擂鉢形の底から空の明るい方を見上げると桜の葩がこぼれて来た。沼の小径から芝生の小高い上へ登り、そこでまた去りがたくなった二人は、どちらからとも
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