花明りの長くつづいた夜道だった。枝も動かず額を染めるような明るさの下だったが、矢代の気持ちは沈んだ。先日千鶴子から来た手紙の内容にしても、彼女の母が矢代に会ってからは急に変り、このごろは何かというと彼のことを母から持ち出して話すようになって来たとも書いてあって、今は二人の結婚への予定は順調といっても良いときだのに、それに彼は、その喜びさえ気苦しい色に変えようとしている自分を感じ、いつもの夜とは花の眺めも違って見えた。
しかし、矢代は、今のような気重さは、そう長くつづくものとは思えなかった。むしろ、ちかぢか機を見て自分の母に千鶴子のことを話し、二人の結婚の許可を得るときに、当然母の承諾を得られるものと一途に思い込んでいる自分の勝手な身構えが、気辛い重さに感じられているのだと思った。もし母が不承知の場合は、必然的に一層母を困らせてゆく予感を与えるのが、父の亡くなった直後であるだけに矢代には辛かった。それも母には千鶴子がカソリックだということだけは、秘め隠していなければならぬ気苦労が今からつき纏って離れなかった。
実は彼は、母には父の納骨をすませた旅さきから手紙で結婚のことを云い出す考え
前へ
次へ
全1170ページ中962ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング