。」と矢代は云った。そして、そこに気附いた叔父の眼を高く思うより今まで自分を眼中にしなかった叔父の態度が、こんなに変って来たのは珍らしい近ごろのことだと思った。それにしても矢代はまだ前からの不快さから脱せられず、ともすると遠慮に落ちる声も低くなりがちだった。
「僕は母が東北で父が九州ですから、あまり美点を持ちすぎて苦しいですよ。」
笑いも出来ず矢代は呟くようにそうぼつりと云って、貞吉の前から起つ工夫をした。話の腰を折られて貞吉も笑いながら黙った。隣家の塀の上から桜の白く覗いているのを、二人は期せずしてどちらも眺めているとき、貞吉の次女が紅茶を持って這入って来た。この次女の忍にも縁談が持ち上っているのを矢代は聞いていたが、これで眼に触れる街街に満ちた娘たちのどんなものにも間断なく縁談が湧き上っているのだと思うと、急に平凡な日常のその平静さがただならぬ光景に見えて来るのだった。それは潮どきにさしかかり一人一人が裡に持ち含んでいた蕾の一時に開き初めた今の季節に似ている眺めだった。
矢代は小石川の貞吉の家から帰るときすぐバスには乗らず桜の下を歩いた。下枝と梢の花間に灯火が射し込み、群がる
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