軸物がよく懸っていた。貞吉などの民権自由の新時代が欧洲大戦の余波を受け大正の資本主義時代の膨脹期にさしかかって来たとき、それにつれて起った社会主義の騒然たる芽も伸び繁り、滝川家の養子らの頭もその声音の高さに嚥まれる時分となった。およそ親戚たちのどの家にもそれぞれに来るべき新時代の余波は何らかの形で及んでいたが、しかし、その底にはむかしから変らぬ自然の流れに似た太い情緒もまたともに流れていた。このような中で矢代は自分の親戚たちを見ていると、不思議とどの家の中の子女たちも、恋愛事件を起して家風の保った独特の静寂な情緒を乱したものは一人もいなかった。皆それぞれ誰も親の定めた嫁を貰い、その教えのままに嫁ぎ、そして何んの間違いもなく子女を育てて老年へと向っている。見わたして強いて異犯あるものと云えば、それは矢代ひとりらしかった。
「おや。」とそういう新鮮なおどろきで、突然矢代は自分と千鶴子との一点の異風に今さら振り返るのだった。実際このさきとも自分は親や親戚たちの誰の努力や奨めにも応じることなく、千鶴子との間をひとえに押し通してゆくことは定っていると矢代は思った。叔父の貞吉が滝川の養子のことを、
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