出てゆくからな。何より家柄の判っているものの方が安全なものだ。」
叔父は矢代の意中を忖度したつもりで、結婚に気のりを見せぬ彼の胸中に針を打つのも忘れなかった。
この日も叔父の貞吉は矢代所持の株券の相場や切替の話をすませてから、彼の母と叔父たち共通の実家にあたる、滝川家のことに自然に話が落ちていった。母の実家の方は士族の土地持ちで、株の他に小作人や山林も地方としては相当多い動産不動産の実状だったから、矢代や今の貞吉の家とは異り、受け継いだ財産を維持するだけで地方特有の煩雑な用務が積っていた。そこへ、後継の娘の養子が新時代と自称する青年で、家の実権が自分に移れば、財産を社会のために解放すると妻に云いきかせて驚かせているということも、貞吉と矢代との間の話題になった。
「これで新時代というものは、いつでも有るものだが、自分が新しいつもりでも、いつの間にやら古うなってしまうものだな。僕らでもむかしは新時代だったよ。」
と貞吉叔父は笑った。頭髪の薄い円顔に小肥りな事業家肌のこの叔父にも、ひとむかし騒がれた鹿鳴館以来の開化文明の欧化思想に浸った形跡もあって、床には諭吉から直接に貰った独立自尊の
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