あった。
「それじゃ、失礼しようか。」と佐佐は云って身を椅子から動かせた。すると、塩野も立った。
「あら、お泊りになって下さらないの皆さん。あたしはもう準備しておりますのよ。」と千鶴子は塩野と佐佐の両人に云った。
 今から帰るのは億劫な様子で暫く躊躇のままだったが、それもついに立ってしまった余勢でうやむやに三人は玄関へ押し出て行った。まだ電車があるのかどうかそれも瞭っきりしないながらも、ともかく夜道を駅の方へ歩いた。矢代は交番の前の椎の樹の傍まで来たとき、また幹をちょっと撫でて仰いでから、「何んだって、物というものは手で触ってみなくちゃ駄目だなア。」と呟いた。そして、ギリシア人の「やがて死すべきものどもが――」という言葉をまた幾度も胸中で云ってみているうちに、それとどこが似ているというわけでないに拘らず、幣帛のあの無限に連り、永遠にわたって沈黙している空間の深さを示す姿を思い出して来るのだった。しかし、なおよく考え込みつつ歩いていると、やはり幣帛の方は、そのような不要なことも人には囁きかけず、表と裏とを見せ、たらりと白く垂れ下っているばかりの静けさで、お前の持ちものをすべて生かせ、そし
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