分と千鶴子に好都合になって来ていると分ると、それだけにまた、父の亡くなったことが思い出されて寂しさを感じて来た。
「僕はこのごろ何か重大なことを考えるときには、つい親父の死んだことも一緒に考えるような傾向になってね、どうも生なら生だけ考えるということは、不可能になって来たよ。親父を亡くした新米のせいかね。」
矢代はこう云いつつも、灯の下で真近に見える千鶴子の組んだ膝のぴっちりくびれた部分が、いつもと違い切なく眼に泛んで放れなかった。彼は自分のこのような視線を欲望といえば欲望だと思ったが、しかし、父の死以来、悲しさが昂じて来ると、それにつれ千鶴子の体を眼に泛べて抑える習慣もついて来ていたのである。それというのも一つは、父の亡骸を抱いたときの死の臭いを思い出すと、ほとんど衝動のように別に思い出す言葉があって、それに抵抗したくなるある作用のためだったが、――すべてのことは、やがて死ぬべきものどもが真実だと思った名目にしかすぎぬ――このギリシア人の名高い言葉は、今の自分のために特に云われたことのようにさえ思われ、その物凄い意味とは反対に、彼に人の肉体への郷愁を感じさせる強いこのごろの原因でも
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