れは一寸恐わそうな怯えを帯んだ表情で、視線を下に落すと、あたりの床を見廻しながら、
「この子はわがままな子なもんですから、皆さんにいろいろ御迷惑おかけしたことだろうって、そう申しているんでございますよ。ほんとにこの子は。」
笑いもせず襟を併せ併せいううちにも、徐徐に遅い微笑が泛んで来た。矢代はその笑顔を見て、初めて、これで心の通じる部分も必ずある人だと思った。
「小母さん、宇佐美の外国行きの用意はもう出来てるんですか。お急がしいでしょう。」と塩野は訊ねた。
「あの人はのんきなものだから、行くんだか行かないんだか、分らないんですのよ。先日も藤沢さんがいらして下すったんですが、あの方一緒につれて行けって仰言るのに、君なんか連れてったらおれの悪事が露顕するからいやだ、なんて申すんですよ。」
「藤沢が来ましたか。あれは今度、幹部になったなア。」
「そうですってね。あの方のお母さんとは父兄会でお会いしたきりなんですが、御病気ですって。」
小さいときからの皆の交遊の深さも思われる塩野たちのなじみぶかい素ぶりだった。矢代はそういう話を物珍らしく聞いていたが、宇佐美家への自分の日の浅さもまた次第に
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