す気もせず、むしろ、あの中世紀そのままの壮厳な古古しい金色の合唱が、人界を離れた別世界に見え、排他的な人を寛さぬその厳しさに、手の届かぬ怨めしげな気持ちさえ覚えて来るのだった。
「年をへし糸の紊れの苦しさにという、安倍貞任の歌があるが、あなたも、さアどうかしらなど云うところを見ると、貞任みたいになかなか歌が上手いなア。八幡太郎は矢で狙っても、歌が上手いといのちを救うんだからね。僕らは日本式に太郎でいこう。」
と矢代はこう云って、千鶴子に弓弦をひき絞っているような様子の塩野を顧みて笑った。
「その方がピエール氏を喜ばすか。」と塩野も笑ってしまった。
椅子の背にもたれたこんな寛いだ気分も、寝ていた人が起きて来たらしい廊下をわたる足音で緊った。もしかすればそれは千鶴子の母のかもしれないと矢代は気がかりだった。千鶴子が三人の客の名を告げてあるなら、彼女の母にしても出るべきかどうか迷うであろう場合だったが、こんな夜分の遅いときには、皆が帰った後から母に来客の名を報らす捌きも考えての上で、招じ入れたにちがいないとも思われた。しかし、それにしても、自分のこの家へ来るのはやはり少し早すぎたと矢代は
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