の人の過去には自分との間に似た幾経過もあったこととも察せられて来るのだった。こんなことは、矢代の胸苦しさを一層ふかめそうな筈なのに、却ってそれが思いもうけぬ手柄のような感興を誘うのは、やはり千鶴子の人柄のせいだろうか、このようなことのある場合に、死を賭して操守を重んじた幾代ものカソリックの訓練の齎らす信用のせいだろうか。――矢代はいつもこれに似た疑問の起って来るときどき、思い出すことは、フロウレンスへ行ったときに見た山上のカソリックの聖堂の中だった。その日は日曜日で、洞穴に似たフィエゾレの内部には蝋燭が立て連ねられ、黒色に揃いの白襟の娘たちの一団が、高く捧げられた金色の十字架に対い合唱していた。陽の光りの射し込まぬ暗い堂内に鳴りこもったその合唱の力は、段段と響きとどろく強烈な楽器のようだった。その轟きは入口にふと立った矢代の胸に異様な圧力を加え、弾き返されるようにすぐまた彼は外へ出て来たが、そのとき眼に映った一瞬の聖衣の揃った見事さは、近代の混らぬ西洋の真の美しさを初めて見たと思わせた。矢代は千鶴子もあのときのフィエゾレの内部に連なるものの一人かと思うと、今もピエールのことなどで撃ち返
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