った。
「いや、もうあの人、来ない方がいいよ。」と矢代は、ひと息の苦しさも愉しみに擦りかえて千鶴子の顔を眺めた。
「そんなこと仰言らずに、めし上れ。」
千鶴子は矢代のコップにビールを注いだが、こういうときのほんの少しの勝ち越しも、いつか男をたしなめる優雅な手つきにするすべさえ加わり、それも自分の見知らぬ夜会で養われて来たものかと、少し赧らんだ千鶴子の眼もとに泛んで来る微笑を、矢代は今さらにおどろき振り返った。
「じゃ、この一ぱいだけはピエール氏のために。後はもう駄目だ。」矢代は先ずこのとき一ぱい飲んで、塩野に対い、
「この千鶴子さんはね君、ピエール氏が非常に好きだったんだよ。君はいつも傍にいたくせに、写真なんて機械に気を取られて、知らないんだろう。」と云って笑った。
「ピエール氏が好きか、を好きか、どっちだ。」
「さア、それはこの人に聞かなくちゃ。」
「え、どっち千鶴子ちゃん。」と塩野は、またこのようなことに限っては稀な稚拙さで、顔を前に突き出して訊ねた。
「さア、どうかしら。」
特に真面目に聞くべきことでも無論なく、今は過ぎ去ったこととして軽軽と取り扱う千鶴子の返事に、矢代は、こ
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